他人の感情の変化に影響されやすく
また傷つきやすい…
同じような悩みを抱える方が、実は多くいらっしゃいます。
周りのちょっとした変化に気づく一方で、その敏感さがゆえに、些細な言葉やその場の雰囲気に吞まれやすかったり、疲れやすかったり、傷ついてしまうことに悩んでいます。
ひょっとして、その違和感は“HSP”と呼ばれるものかもしれません。
HSPとは?
HSPは、Highly Sensitive Personの略称で、「ひといちばい敏感な人」を指す性格的傾向です。
HSPは、病名や障がい名(医学用語)ではなく、気質と呼ばれる性格的要素の1つであり、主に“生まれつきの部分”を指します。
HSPの割合は?
HSPを持つ人は、全人口の5人に1人の割合(15~20%)と言われます。
例えば、20%ということは、残りの約8割の人には、その“生きにくさ”が分からないということになるでしょう。
HSPの概念は、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン氏によって提唱され(1996年)、世界各地で翻訳された後に知名度が一気に広がりました。
日本でも、「繊細さん」の本がベストセラーになったり、タレントが“自分はHSPである”と告白する人も出ており、HSPの関心が飛躍的に高まっています。
また学問上では、SPS(感覚処理感受性)と概念化して、現在、HSPの様々な基礎研究が活発になされています。
HSPの優れている面/すごい所
- 変化に気づきやすく、他者への共感に長けている。
- 他者の気持ちを敏感に察したり、気遣ったりできる。
- 周りの異変や疑問に気づいたり、危険予知に優れている。
- 物事を思慮深く、長く考え続けることができる。
- 美的感覚が豊かであり、芸術や音楽、映画などに感動できる。
- 穏やかな生活に幸せ(やすらぎ)を感じられる。
HSPのつらい面/生きにくい所
- 周りが気にしない事まで、気になる。
- 新しい環境に疲れやすく、慣れるまで時間がかかる。
- ストレスを感じやすく、発散しにくい。
- 共感疲れのように、相手の感情や態度に影響され、巻き込まれやすい。
- ささいな言葉でも傷つきやすい。
- 困難状況のイメージだけでも負の感情が生じやすい。
- 不安や抑うつ症状を経験しやすい。
- 背痛、下痢、胸やけ、喉の痛み・渇きなどの身体的症状を経験しやすい。
HSPを持つ人は、周りと違う自分に、“違和感”や“自己否定”を抱くことが少なくありません。
特に、「性格を変えなきゃ」「もっとしっかりしないと…頑張らないと」は、HSPの人の自己啓発的なスローガンになりやすいものです。
ですが、HSPを持つ人にとっての真の生きやすさは、周りとの違い(敏感な私)を理解することから始まります。
セルフチェックしたい人は、下のアンケートを試してください。
「はい」(どちらかといえば当てはまる)、「いいえ」(全く当てはまらない、ほぼ当てはまらない)の2択で答えてください。
HSPのセルフチェック | 1.自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ。 ※12個以上「はい」が当てはまる場合、HSPと考えることができます。 |
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Q&A
Q) 治療できるの?
HSPは病気ではなく気質です。医学的な治療対象ではありません。ですが、その敏感さゆえに、不安や抑うつ状態が強くなる、睡眠や食事がうまく取れないなど場合は、専門科(心療内科、精神科)の治療対象となる場合があります。
一方、カウンセリング場面では、HSP特性の理解を深めるとはお伝いできます。傾向を一緒に振り返るとともに、日常でHSPの特性がどう生じているかなど、またその対策も一緒に考えます。
Q) HSP向けの心理療法とは?
DOESに対応した心理ケア(セルフケア)を学んで頂くことができます(一例にすぎません)。
HSPを持つ人は、DOESという4大特徴をすべて持っていると、エレイン・N・アーロン氏は提唱します。
【D】深く処理する(Depth of processing)
【O】過剰に影響を受けやすい(Overstimulation)
【E】感情反応が強く、共感力が高い(Emotional & Empathy)
【S】ささいな刺激も察知する(Subtlety)
【D】深く処理する・考え過ぎてしまう
考えすぎや余計な思考に囚われてしまい、行動選択を決められない時は、本来の目的(やるべことや優先順位)を思い出したり、本音(本当はこうありたいのに)を明確にして行動することも大切でしょう。カウンセリングでは、自分の考えを整理する、広げるといったことをお手伝いします。
【O】過剰に影響を受けやすい
情報量を上手く調整しましょう。落ち着ける時間や場所(タイムアウト、ブレイクアウト)を生活内に導入する、やるべき課題をスモールステップに分けてそれに一点集中する(To-Doリストも有用です)、さらには、作業完了した自分にご褒美をあげるなども、作業中の情報量(集中力)を調整できます。
【E】感情反応が強く、共感力が高い
他者の感情変化に敏感に反応してしまうときは、まず、自分の中の感情に気づきましょう。例えば、その感情に“名前をつける”としたら、どんな感情になるか?をラベリングします(喜怒哀楽ななどシンプルな感情で名付けてみましょう)。感情をラベリングすることで、感情と少し距離を置くことができます。その距離は、自分を保つための「スペース」(自他の境界線=バウンダリー)となり、その後の様々なコーピング(ストレスケア)の展開を可能とするものです。
特に、他者との間にバウンダリーを立てること(境界線を引くこと)は、HSPの人の生活課題として、非常に重要です。
- 自分の尊厳を忘れないこと(自分の心と体は”自分のもの”です)
- 自分の体形や容姿の価値(あり方)は自分で決めるものです(他人に委ねたり、決められることではありません)。
- 他者の尊厳(バウンダリー)も冷静に認めましょう(怒る自由、悲しむ自由、相手なりに頑張ったり回復しようとする力)。
- つらいときはその場を離れてもいいです。
- 物事の感じ方は人それぞれです。
【S】ささいな刺激も察知する
五感の鋭さをやわらげることも大切です。不快刺激(音、匂い、人混みなど)に対しては、それを取り除ける場合は、思い切って取り除きましょう(音を消す、その場を離れる、遠ざけるなど)。
一方、取り除けない場合は、刺激量を減らす工夫やアイテムを用いましょう(好きな香り、落ち着ける名言、便利グッズ、コンビニ弁当で家事を減らすなど)。アイテムはその人に合うものを探します。
Q)発達障害との違いは?
HSPは性格傾向であり、障害名ではありません。確かに、”生まれつき”や“感覚過敏”の点において重なる部分はありますが、発達障害のように、知能面の凸凹(大きなギャップ)を前提とはしません。ですから、両者を見分ける方法の1つに知能検査があります。
家族やパートナーがHSPだったら?
お互いにとって、心地よい生活方法を探すことが何よりも大切です。他の性格特性と同じように(神経質、内気など)、HSPの程度もまた、その時のストレスや不安の程度によって変化します。ですから、HSPとの上手なつき合い方を考える上では、お互いがムリなく過ごせる生活空間や様式を探し、その前提として、お互いの違いを知ること(感じやすさ、鈍さを理解する)から始めてみるとよいでしょう。
長文記事を、最後までお読みいただきありがとうございました。